歳をとった私にとっては当たり前でも、若者にとっては未知であることもあります。食事のような日常のシーンでも、ギャップをあらためて感じます。
私は二十代半ばから三十歳前後の人々に囲まれながら仕事をしています。歓迎会など、彼らと食事をすることがあるのですが、レストランでの振る舞いや知識に歳の差や時代の隔たりを感じます。
一般的にはアラカルトの場合でも、前菜やスープ、魚や肉料理、主菜などをバランスよく頼みます。いきなりお腹が膨れることがなくさまざまな料理を楽しめ、栄養バランスもよいからです。なによりもたくさんのメニューと食材を用意してくれるお店側への敬意がありますし、お店側もコースのように順番に前菜から出してくれます。
しかしながら、若い人たちはいきなりボリューム感のある料理ばかりを頼みます。また、同じものをおかわりすることも多く、頼む順番もあべこべです。
若いのだから、食べたいものをたらふく味わいたい気持ちも理解でき、見ていて微笑ましく思います。ただし、歳を重ねるにつれて重要な会食に参加することもあります。料理のオーダーはお店側や客人への心配りが如実にわかってしまうため、年寄りの私はちょっと心配しています。
年齢の差もありながら時代の違いだなと感じたのは、彼らが「アペタイザー」や「アンティパスト」という言葉を知らなかったことです。
私が彼らの年齢のときは、まだバブルの残り香が漂っていた時期です。背伸びをしてレストランに通っては、フランス料理やイタリア料理の単語に触れていたものです。それに比べ、彼らは小難しいことには無関心です。おそらくは背伸びをしたいという気持ちがあまりなく、フラットで等身大の価値観を持っているのかもしれません。
「そんなことも知らないのか」と一蹴するのは簡単ですが、知っていたからといって自慢にもなりませんし、常識と呼ぶほど一般的でないかもしれません。私もあらためて調べてみたら、知らない言葉がたくさんありました。
前菜について調べると、イギリスのスターターやフランスのアントレ、スペインのタパスなどは有名ですが、ロシアのザクースキやアルゼンチンのピカディタスなど馴染みのないものはたくさんあります。また、食後酒を意味するディジェスティフなんて聞いたこともありませんでした。
「アペタイザー」や「アンティパスト」は西洋圏では常識的な言葉であるかもしれませんが、日本においては所詮、外国語です。今後は若者のなかで流行った新しい料理の言葉を私たちが知らないなんていうことも起きるのでしょう。今はそんな年齢や世代のギャップを感じながら料理を楽しむのも面白いなと思っています。