人との別れ

人生にとってなにが一番重要か、この答えを導き出すのは些か難しく思えます。
なぜなら、人によって異なる価値観を持ち、重要なものは幾つでもあるように思えるからです。
最近友人たちと、このような議論をする機会が増えています。そして彼らとの対話を通して、人生の価値を人間関係に見い出している人が多いことに気付きました。

八月の蝉

相手に自分を理解してもらい、受け入れてもらいたい。そして自分も相手を理解し、受け入れ、できることをしてあげたい。人はそのような相互関係を望んでいるのだと思います。

しかしその前提として、出会いが重要だと考える人が多いようです。現在も出会えないまま、寂しい思いをしている人も多いように思います。そして出会えたとしても、関係を築くのに値する存在なのか、疑っている人も多いように思います。
一般的に、夫婦や恋人、友人、そして家族でさえも、疑いを持ち互いを探り合っています。すれ違いや誤解を生みながらも相手を信じ、自分をさらけ出し、関係性をじっくり築いています。
このように、大半の人は出会いと、その後の関係構築を重要視しているようにみえます。これらは確かに重要なことではありますが、人間関係には、それ以外にも重要な場面があるように思います。

八月の森

それは、人との別れです。
別れは必ずやってきますが、大抵の人は予期しないまま対峙することになります。離婚、恋人との別れ、引越しなどによる離散。様々な別れのかたちがありますが、究極的なものは死別です。
死は必ずやってくるのに、人はなかなかそのときを考えようとしません。相手が死ぬ場合、自分が死ぬ場合、どちらも頭の外に置いたまま、その日はやってきます。しかし別れを受け入れる覚悟を持ち合わせていないので、人は狼狽し、絶望してしまいます。そしてこの心構えができていないと、人生は不幸なものとなってしまいます。

山道の地蔵尊

せっかく出会えた人を、育んできた愛情を、全て捨て去らなくてはならない。虚無に襲われ、自分の人生は徒労だったと思い込んでしまう。今まで相手と培ってきた素晴らしい日々も投げ出したくなり、それから続く人生も、どうでもよくなってしまう。よくないと思いながらも、気持ちに抗うことはできない。
余命少ない本人も、周りの人々も、一様に別れを直視しなくてはなりません。
人生を歩めば歩むほど、このような苦しみが増えていきます。しかし、逃れることはできません。だから尚更、考えておかなくてはならないものだと思います。

人生の価値を決める、人との関係。その善し悪しを左右する別れという段階を、私は今後も考え続けていきたいと思います。そしてその答えやヒントを、小説の中に投影していきたいと思います。

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