パルテノペ:夏の風景

毎日、暑い日が続きます。
そんな夏は、ゆっくりと冷房が効いたところで涼んでいたいですね。
今日は小説「パルテノペ」に登場した場面を振り返ります。

東京都新宿区西新宿・窓の風景

このコラムを読んでいただいている方はご存知と思いますが、「パルテノペ」は私が執筆した作品です。

舞台は夏休み。高校二年生の少女と幼なじみの少年、そして転校生の少年。
過ぎ行く時間を惜しみながら成長していく青春物語です。

東京都新宿区西新宿・窓の風景

劇中では、主人公の郁がひとり、昼食の後に外を眺める場面があります。
私はこの写真の風景を想像しながら執筆をしました。

ここは新宿の少し外れたところ、中央公園の脇にあるファミリーレストランです。
いつもは周辺で働くサラリーマンで溢れていますが、休日や早朝、午後から夕方までの時間は静かに過ごすことができます。
私はここで、いくつか小説を書き上げました。

東京都新宿区西新宿・窓の風景

写真を見ても分かるように、夏の木々が青々として、とても気持ちのよい景色です。
春や秋なども自然が楽しめますが、この季節は特に見応えがあります。
劇中では突然、夕立が降ってきて、辺りがふっと暗くなります。

 それにしても、陽太の相談ってなんだったんだろう。ふと考えている自分に気付き、視線を本に戻した。活字の並びが急に優しく見えると思ったら、夕立が降り出していた。先ほどまで明るかった窓際の席が途端に暗くなり、深緑の枝が雨に打たれて何度もお辞儀をしていた。外を見ていると、室内にいるのに気温が少し柔らかくなったような気がする。雨に逃げ惑う人々と、ときおり光る雲を見つめていたが、私は再び胸がどきどきしていることに気が付いた。この雷雨にではなく、陽太に「敏志と付き合えば」と言われたことでもない。これは、午前中のプールのやつだ。

塩澤源太「パルテノペ」より引用

「トリスタン・イズー物語」(岩波文庫)

郁の読んでいた本は「トリスタンとイズー」という本です。
ケルトの説話で、中世フランスで編纂された恋愛物語です。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」もこの物語の影響を受けていると言われています。
愛の媚薬を誤って飲んでしまった騎士と王の妃との悲恋で、古典ではありながらも面白い物語です。写真のトリスタン・イズー物語 (岩波文庫)のものが読みやすいので、興味のある方はぜひ探してみてください。

東京都新宿区西新宿・窓の風景

ゆったりとコーヒーを飲みながら景色を見つめ、思いにふける。
私は都会に浮かぶ自然の情景が好きです。
せわしなく動く街に溶け込む街路樹や季節の光、無機質でも有機質でもないこの微妙な雰囲気は、都会特有のものだと思います。毎日の生活に息を切らしても、ふと視線を遠くへやれば優しく心地の良い気分になります。

私は執筆において、風景描写を丁寧に扱うようにしています。
登場人物の心理描写を補強するだけでなく、読み手を物語の空間にいざなうことができるためです。
また、書いていて楽しい部分でもあります。
「パルテノペ」でのこの場面は、自分自身でうまく文章にできたと思っているので気に入っています。

「パルテノペ」は「センチメンタル(短編集)」に収められています。もしくは単体でも出版しているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

Scroll to top