林忠彦写真展 日本の作家109人の顔

先日、日比谷図書文化館で行なわれている「林忠彦写真展 日本の作家109人の顔」を観賞してきました。作家ごとにさまざまな表情を浮かべていて、とても興味深かったです。

:「林忠彦写真展 日本の作家109人の顔」

会場はひとつのスペースのみで小規模なものでしたが、とても見応えがありました。

ポートレート写真と作家のプロフィール、そして撮影時のエピソードが展示してあり、詳しく撮影当時の様子がわかるようになっています。所狭しと写真が並び、中央には作家たちの初版本を含む代表作が展示してありました。またコンタクトシートと呼ばれるネガフィルムを1枚まるごと焼いたものも展示してあり、どのようにして1枚の写真を決定したのかわかるようにもなっています。

コンタクトシートには川端康成のものがありました。林忠彦にとって川端康成はとても近寄り難い存在だったそうですが、どうしても近くから撮影がしたかったそうです。川端康成の性格について書かれた書物などを私も読んだことがありますが、非常に難しい性格だったようですね。ですので林忠彦のエピソードを読んだとき「やっぱりそうだったんだ」と思いました。しかし彼はどうしても川端康成の眼光を身近で捉えたく、粘り強く撮影したそうです。

:「林忠彦写真展 日本の作家109人の顔」

また、銀座ルパンで撮影された太宰治の写真も展示されていました。これは非常に有名な写真ではありますが、撮影時のエピソードを見ると偶然が生みだしたものであり、加えて太宰治のわがままから撮影されたもののようです。林忠彦は別の作家の撮影に来ていたのに、当時あまり有名でなかった太宰治に「撮影しろ」と言われ、フラッシュバルブがひとつしか残っていないにもかかわらず半ば無理矢理撮影させられたそうです。しかも距離が取れず、彼はトイレまで下がって撮影したそうです。

他の作家たちの写真も非常に興味深いものばかりでした。すべて書いてしまうと長くなってしまうので割愛しますが、写し出された作家たちの個性はひとえに林忠彦の人間関係の作り方が大きく寄与しているのだと思いました。

:「林忠彦写真展 日本の作家109人の顔」

エピソードを見ると、どの作家ともよく酒を飲み、話し、遊んでいました。逆にそういったエピソードの少ない作家たちの写真は、どことなく魅力が半減しているような気がしました。
私も少しだけ写真を趣味としていますが、撮影者独自の人間性が大きく写真に影響するように思います。被写体をどのように捉え、表現するかという部分も必要ではありますが、特に人間を被写体とする場合は、撮影する前に相手の人間性をあぶり出す作業が非常に重要なのだと感じました。

また、小説を書く場合にもこの技術は必要だと思います。例えば誰かをモデルにして小説を書く場合、その相手に対して取材をする必要があります。このときに作家と取材対象となる人物との人間関係をうまく作り上げ、相手の人間性をあぶり出すのです。作家の在り方というのはさまざまですが、林忠彦のように対象とうまく付き合う技術も大切だと痛感しました。

「林忠彦写真展 日本の作家109人の顔」
2014年9月25日(金)〜11月25日(火)
平日10:00〜20:00 土曜10:00〜19:00 日曜祝日10:00〜17:00
(入室は30分前まで)
千代田区立日比谷図書文化館

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