鷲神社の酉の市

普段は接する機会のない人々、行くことのない場所。その出会いは、いつも驚きと発見に満ちています。今回、たまたまそんな場所に立ち会うことができてとても幸せに思いました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

先日、関東三大酉の市のひとつ、台東区千束の鷲神社の酉の市に行ってきました。
あてもなく散歩をしようとバスに乗り込み適当な停留所を降りると、出店が並び賑わっていました。道を進むにつれ人が増えていき、ようやく酉の市が行なわれているのだと気がつきました。

千束の鷲神社周辺は、以前から樋口一葉や吉原に興味があり足を運んでいましたが、酉の市に行ったことはありませんでした(幼少期に連れられていった記憶はありますが定かではありません)。普段の街並からは想像もできないほど人が溢れ、出店がひしめいており、どこまでお祭りが続いているのかわからないくらいの大きな規模でした。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

ふと夢の中を彷徨うように、妖しげな夜の街を歩いていく。それは時代や空間を超越した、なんとも不可思議な世界です。そんな錯覚に襲われるこの酉の市は、一見の価値があると思います。私もすっかり魅了され、知人と出店の席に座ってお酒を飲むことにしました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

人で賑わう道を背に、ワンカップと焼き鳥、もつ煮込みやサザエを堪能する。なんとも幸せな時間です。知人と語り合っていると、ふと隣の席から話しかける方がいらっしゃいました。それはジャージを着たお爺さんで、彼は私のカメラを見て、自分も始めてみたいと言いました。けれどもどれを選んでよいのかわからず、私にアドバイスがほしいと言いました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

そのお爺さんはお酒を飲んでいましたが、年下の私に申し訳なさそうに、丁寧な言葉遣いで話しかけてくださいました。私は嬉しくなり、一所懸命助言をさせていただきました。お爺さんは興味深そうに話を聞いてくださり、最後は私と知人にワンカップを御馳走してくださいました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

また、列に並んでいる子どもと交流したり、出店のお兄さんにサービスをしてもらったりと見知らぬ人々と幾つのもの交流がありました。
この日ばかりは関東大震災で痛ましい事故にあった弁天池も、優しく楽しい雰囲気に包まれていました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

熊手を売る酉の市や鷲神社も、普段とは全く異なり活気に満ちていました。神社やお寺で行なわれる酉の市は宗教上のお祭りではありますが、そこには教義も異教の諍いもなく、ただ「一年を感謝し、次の一年の幸せを願う」「賑やかにやって福を呼ぶ」といった単純な感情が存在するだけのように思いました。

普段は見えない壁が立ちはだかり、境界線が張り巡らされる世の中ですが、皆が集まりただ生きることの幸せを享受するこんなお祭りを通して、人間の懐の深さを垣間見た気がしました。

東京都台東区千束:鷲神社の酉の市

普通に考えれば矛盾だらけで、難しいことを挙げればきりがない毎日ですが、自分自身も細かいことを気にせず、おおらかに過ごすことができればよいなと思うきっかけを貰ったような気がします。

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