蝶は蛹(さなぎ)から孵化するとき、幼虫の頃の記憶を留めているのでしょうか。もし留めたままならば、とてもロマンチックだと思います。
蝶に限らず、一部の昆虫は幼虫から蛹を経て成虫へと変態します。芋虫のような動きにくい形態から、空を跳べるほどの能力を持つ形態へと変化するのは不思議な気がしますが、さらに驚くべきは蛹の状態のとき、昆虫の身体は一部の神経や呼吸器系を除いてドロドロに溶けてしまうことです。今まで固体であった生き物が、溶解して再び固体に戻るというのは信じ難いものがありますが、写真などを見ると確かにそのようになっています。
さて、そのような過程を経て、成虫は幼虫の頃の記憶は留めているものなのでしょうか。そもそも昆虫に記憶があるのかさえ分かりませんが、身体がほとんど溶けても記憶を留めていられたらすごいと思います。私はそんな昆虫のことを思うとき、SFなどに登場する空間転移装置を思い出します。
空間転移装置、すなわち別の場所へ瞬間的に移動する装置のことですが、もちろん現実には存在しません。しかしSFの場合は色々な理屈を考えて実現させています。三次元の空間をゆがめて移動させる方法が多いのですが、そのまま転移させるとかさばるので、一度コンパクトなかたちに物体の組成を変えてから転移させます。そして目的の場所へ到着したら組成を再構成させます。なんだか、昆虫の孵化に似ていませんか?
さて、バラバラになったものを再構成しても、記憶は留めておけるものなのでしょうか。漫画の「攻殻機動隊」では、脳の記憶や構成をデータ化してネットや機械へ移しても、自我まではそこへ持っていけない、と主張しています。作中で自我を表す「ゴースト」は記憶だけを意味するものではありませんが、自我を形成するために記憶は大きく関わっているように思います。
結局、私の知識だけでは結論に至ることはできませんが、もし記憶を留めることができたのならとてもロマンチックだと思います。例えば、死んだあとでも記憶が残り続け、今の身体から解き放たれた状態でも自分であり続けられるような気がするからです。