かつての大切な場所

先日、荒川河川敷を歩いてきました。穏やかな陽気のなか、土手を歩くと何とも朗らかな気分になります。空は広く、緑は青々としていました。

東京都北区・足立区:荒川河川敷

荒川河川敷は、私が小さい頃に過ごした場所です。家から歩くとすぐに隅田川と荒川があったので、父と一緒によく遊びに行きました。今回は足立区との境にある江北橋の近くから、赤羽岩渕まで北上しました。

東京都北区・足立区:荒川河川敷 岩淵水門

昔は雑草が自由気ままに生えていて、堤防も水害を守るためだけに立てられていて、とても寂しい場所でした。しかし現在は遊歩道や緑地が整えられ、散歩やジョギングなどが気軽にできる公園に様変わりしました。

東京都北区・足立区:荒川河川敷 ムクドリ

無数にあった工場群は公団住宅やマンションに建て替えられ、温和な雰囲気となりました。ここで新たに生活を始める人々にとっては、自然と都市の調和が取れた住みやすい場所に映ることでしょう。ゆっくりとそんな景色を眺めていると、喜ばしいような、少しだけ寂しいような不思議な感覚に襲われます。

かつての荒川河川敷

なぜなら、私が幼少期に過ごした雰囲気が覆い隠され消え去っていくような気がしたからです。遠くに見える奇妙な構造をした工場群、打ち捨てられた粗大ごみ、取り残されたように静かに立つコンクリートの堤防。西日で覆われた空にカラスが飛び、錆びた遊具が遊ばれないままじっとしている。そんな光景が、かつての河川敷には広がっていました。

東京都北区・足立区:荒川河川敷 シロツメクサ

しかし、誰にも目を向けられない場所で満開になるシロツメクサや、日に照らされて輝く荒川の水面(みなも)に目を向け感動し、遊んでいた幼き自分がありました。少し大人になって、もっと活気のある場所へ逃げたいと思ったこともありましたが、再び訪れて、かつての風景が消えつつあるのをを見ると寂しく思えてくるものです。

東京都北区:荒川河川敷 隅田川出発点

人というのは、生まれ育った場所がどんな場所であったとしても、心の中では大切な場所として認識しているのだなと思いました。新たにここで育つ人々にとっては、同じ場所でも私とは異なった印象を持ちながら、やはり私と同じように、大切な場所として心に刻まれていくのだと思います。そう思うと、この場所は私の河川敷ではすでになく、新たな誰かの河川敷として生まれ変わったのだと感じます。

Scroll to top