東京は日々古いものが新しいものに取って代わる都市です。先日、山手線の新駅計画で消滅するという噂の高輪橋架道橋に行ってきました。
高輪橋架道橋は山手線の品川駅と田町駅の間にあり、この周辺では高輪側から港南側へ抜ける唯一のガードなので、客に急かされて近道をする多くのタクシーが利用しています。しかしながら、標識の制限値は1.5メートルと極めて低く、タクシーの上に飾ってある提灯がぶつかって外れてしまうことが多いため「提灯殺しのガード」として知られるようになりました。
最近、ニュースなどでも取り上げられているのでご存知の方も多いと思いますが、このガードは山手線の新駅を建設する関係で消滅するようです。この周辺の再開発が計画(東京サウスゲート構想)されていることと、タワーマンションが多く建ったことから新駅の需要が増したということです。
さっそく泉岳寺駅から歩いて道を曲がるとすぐにガードが見えてきます。一目で分かるほど異常な低さに驚かされます。標識の「1.5m」も確認できますね。
ガードは地上よりも低く坂道になっていて、吸い込まれそうな感覚に陥ります。線路と線路に間隔があるので、そこから日が差し込んでいます。雨の日は雨雫が落ちると思うので、途中まで傘が必要そうです。
180センチある私の身長では、かがまないと歩けません。女性でも圧迫感のある高さです。ガードに入ったばかりの位置ではまだ余裕がありますが、中に行けば行くほど低くなっていきます。
防錆用の塗料を施した鉄骨のプレートも確認できます。いろいろなものがむき出していて、炭鉱にいるような気持ちになります。閉所恐怖症の人は少し厳しいかもしれません。
振り返って日の差し込む場所を撮影してみました。ガードの薄暗さと日光のコントラストが印象的です。ここはまだ序の口で、全長は230メートルもあるとのことです。
車は一方通行なので、道幅も車一台分が通れるくらいです。私が訪れた際もタクシーが何台も通り抜けていきました。
港南口のほうへ出ると、塀の上にタクシーの提灯(丸型ですが)が置いてありました。ガードの餌食になったのでしょうか、これほど分かりやすく置かれているのは面白いです。
再開発の影響か、この日は交通量の調査をしている人が何人かいました。
ガードを抜けると公園になっていて、野良猫がのんびりくつろいでいました。公園の先は運河で袋小路になっています。ガード自体もそうなのですが、この周辺はせわしない東京に置いてけぼりにされたような寂しげな雰囲気が漂っています。
港南側は芝浦水再生センターやマンションが建ち並ぶばかりで、あまり人気(ひとけ)がありません。新聞を読む男性や、特に何をしているのか分からずぼうっとしている女性がいるばかりです。しかしながら、私はこのような場所にいるほうが落ち着きます。
今後、ガードの上にあった車両基地や線路は整備され、この場所は他の再開発地域と同じように高層ビルが立ち並ぶことでしょう。綺麗に舗装され、お洒落なレストランやカフェなどができて、活気ある街に変貌することでしょう。
現在の風景は次第に忘れ去られ、懐かしむ人も少ないことでしょう。再生を繰り返すのは東京の一番の特徴であり、良いことではあると思いますが、私は野良猫が佇み、無造作に雑草が生えた現在の風景のほうが愛しく感じます。
現在より前にはきっと干潟など東京の原風景が広がっていたことでしょう。そして、現在のように浄水場や線路やガードに覆い尽くされてしまったのかもしれません。その当時に生きていた人は、やはり寂しい気持ちになっていたのかもしれません。
古いものは新しいものに変わって、それも次第に古くなっていく。そして、再び新しいものに取って代わる。繰り返される変化の中では、私たちが見ているものは一瞬の出来事なのかもしれません。私はただその場所に訪れて、記憶の中にぼんやりと留めることしかできません。