赤みみずく

赤みみずくは江戸時代、疱瘡(ほうそう=天然痘)除けの縁起物として人気があったそうです。天然痘はすでに根絶されましたが、赤みみずくは今なお職人たちの手によって作られ、私たちの健康を見守り続けてくれています。

江戸趣味小玩具仲見世 助六と勅使川原型犬張り子江戸玩具制作 工房もんもの赤みみずく

ワクチンが開発されて普及する以前は、天然痘は大量の死者を出す恐ろしい伝染病でした。特に子どもが重症になりやすく、もし命が助かったとしても失明の恐れがあったそうです。天然痘を恐れた江戸時代の人々は「疱瘡絵」や「赤絵」と呼ばれるおまじないの絵を、病人の寝床にある枕屏風に貼り付けたそうです。

論文「疱瘡絵の文献的研究(川部裕幸)」によると、疱瘡絵は魔除け効果のある紅(赤色)濃淡二種で摺られ、縁起の良いモチーフが描かれていたそうです。それらのモチーフは、鎮西八郎為朝や鍾馗、獅子舞いなどの疱瘡退除、春駒や羽子板、梅、蓬莢山などおめでたいもの、そして元気な子どもの姿を描いた回復の予祝の三つに大別できるそうです。また、疱瘡は子どもが罹りやすいものだったので、寝床で安静にしている際に退屈しないように玩具のモチーフも多く用いられたそうです。みみずくはだるまと同様に、縁起の良いものとして描かれてきました。

みみずくは病気を治す力を持ち、かつ目が大きいことから天然痘による失明を退けると信じられていたようです。赤い色は魔除け効果以外にも、重度の天然痘患者の発疹は色が黒くなり、軽度の場合は赤くなることから、縁起担ぎで用いられてきたともいわれているそうです。

赤みみずく:江戸東京博物館蔵 歌川国芳の版画を玩具にしたもの

赤みみずくを知ったのは十年以上前に江戸東京博物館を訪れた時だったと思います。ミュージアムショップで発見してすぐに虜になりました。こちらの赤みみずくは大と小がありますが、歌川国芳の版画「赤絵みみずく」(江戸東京博物館所蔵)を人形化したものです。職人さんの手でひとつひとつ作られていて、表情もそれぞれ異なります。また、この赤みみずくが摺られた手ぬぐいもあります。

江戸趣味小玩具仲見世 助六と勅使川原型犬張り子江戸玩具制作 工房もんもの赤みみずく

写真の奥中央は備後屋で手に入れた「工房もんも」の赤みみずくです。一緒に入っていた説明書によると「張り子の達磨とみみずくは、紙製のために病が軽く済むというところにかけて珍重されたようです」とあります。江戸時代の人たちの言葉の創造力には脱帽します。

その他は浅草の仲見世にある「助六」で手に入れました。奥左は土鈴(どれい)で、振るとカラカラと音がします。右側のものには仕掛けがあり、出っ張ったところをいじると赤みみずくの顔が飛んで中の顔が現れます。手前のふたつは私のお気に入りの小さな赤みみずくです。小さいながら、模様が細かくデザインも秀逸です。何より可愛らしくて、見つめていると自然と笑みがこぼれてきます。

赤みみずく色々

お腹に宝珠や寿の文字が描かれ、赤い色をしたみみずくなんて呪術的な要素が満載なのですが、その妖しげな容姿とは裏腹に、表情はとても可愛らしいです。部屋の一角に集めておくと、夜中に赤みみずく同士で病魔退散の相談をしていそうで、なんとも微笑ましく感じます。

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