さようなら築地市場

築地市場は八十年以上の歴史に幕をおろします。明日からは解体作業が始まり、豊洲市場が開場となります。

東京都中央区築地:築地市場

先週の土曜日、築地市場に赴きました。「もうすぐ移転しまうから行っておこう」と思っていたのですが、まさかぎりぎりのタイミングだったとは知らなかったので、危うく機会を逃すところでした。

東京都中央区築地:築地市場

場外は波除稲荷神社に参拝するなど、ぶらぶらと散歩する際に訪れていたのですが、場内に入るのは久しぶりでした。以前は友人たちと始発で訪れて、あまり並ばずに有名店のお寿司を食べることができました。そのときに食べたお寿司の味は格別で、今まで食べたお寿司の中で一番美味しかったと記憶しています。

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先週訪れたときは見学ができる最後の土曜日だったこともあり、観光客でごった返していました。市場で働く人たちも「こんなに人が多いのは初めて」と口を揃えて驚いていました。寿司大や大和寿司、寿司文などの有名店は何時間待つのかというほどの長蛇の列で、普段はすぐに入れるお店にも長い列ができていました。

東京都中央区築地:築地市場

到着した午前九時頃には市場で働く人たちの仕事は落ち着いていましたが、早朝の忙しい最中には人混みで混乱していたことでしょう。ターレ(ターレットトラック)が通るのを気づかない観光客がいたり、観光客同士で諍いがあるなど少々混乱した雰囲気はありました。しかしながら、市場の人たちは黙々と仕事をされていて、さすがプロだなあと思いました。

東京都中央区築地:築地市場

関係者が集まる卸業者売場だけでなく、観光客が集まる魚がし横丁も風情があります。お寿司屋さんだけでなく、道具屋さんや本屋さん、漬け物屋さんなど多くのお店が並んでいます。元々は市場で働く人たち向けでしたので、飾り気のない雰囲気が残っています。飲食店は観光客のお目当てのお寿司屋さんよりも、蕎麦屋やラーメン屋などの方がむしろ場内の雰囲気を感じられてよいのではないかと思います。私ももちろん観光客なのでお寿司屋さんに入りましたが、そのあとは喫茶店で一服しました。

東京都中央区築地:築地市場

仕事の合間なのか、観光客を避けてかはわかりませんが、お店に入らずに裏手で食事をとる人もいます。私は観光客なので雰囲気をぶち壊してしまうのですが、生活感が漂うこのような風景を見ると嬉しくなります。
市場の外では目まぐるしくお店が変わり、風景も一変しています。働く人たちを優先する場内であったからこそ、このような昭和の趣きを残すことができたのかもしれません。外国からの観光客も、お誂え向きの目新しい施設より、このような風景を見たいのだと思います。

東京都中央区築地:築地市場

観光客の人たちはお寿司屋さんに並ぶのに必死だったので、喫茶店には並ばずに入れました。店内は観光客と市場関係者が半々くらいで、和やかな憩いの場が残されていました。場内の飲食店はすべて豊洲に移転するそうですが、歴史が刻まれた趣きのある店内だけは移すことができません。後ろの席で商談をする市場関係者の方の会話をBGMにしながら、美味しい珈琲を堪能しました。

東京都中央区築地:築地市場

私の祖母は南池袋で料亭を経営していたのですが、若い頃の母は築地に買い出しに行かされていたそうです。そのとき、いつも通っている雑司が谷の魚屋の店員さんとばったり出くわしたという思い出があるそうです。

東京都中央区築地:築地市場

おそらく現在の風景も、母が見ていたものとあまり変わらないのではないかと思います。施設の老朽化による移転はやむを得ないことですが、このような風景がなくなってしまうのはとても残念なことだと思います。

東京都中央区築地:築地市場

卸業者売場も見学できる時間になったので中に入りました。八十三年間積み重なってきた営みがすべて凝縮されていて、その佇まいに圧倒されました。薄暗い屋内に灯るライトにぼうっと映し出されるお店の看板は、とても力強さを感じます。それらは建物の曲線に沿って、数えきれないほど延々と並んでいます。国内ではもちろん、世界的に見ても数少ない巨大な市場です。言葉では何と伝えてよいのかわからない、幻想的な雰囲気をたたえています。

東京都中央区築地:築地市場

こんなにも美しい場所を無くしてしまうなんて、本当に残念で仕方がありません。一部は残して市場の機能を維持してもらいたいものですが、築地市場の魅力は現在の規模のまま活気のある市場として機能していればこそなので、表面や一部分だけを残したとしても、輝きはすぐに失われてしまうのかもしれません。当たり前ですが、膨大にあるすべてが本物で、何物にも代え難い存在感があります。今更、それらを写真として捉えることのできない自分の撮影技術の未熟さを口惜しく思います。

東京都中央区築地:築地市場

豊洲市場も同じ年月が流れれば築地と同じような魅力を身にまとうことができるのかもしれませんが、すでに時代は変わってしまいました。早々に建て替えやリフォームなどをして、新しい姿を維持するようになるのでしょう。

東京都中央区築地:築地市場

目まぐるしく変わる東京の中では、築地市場は古い姿を留めることのできる特別な存在だったのかもしれません。確かに卸業者売場に入ると建物の老朽化は目に見えて明らかで、移転もやむを得ないことだとわかります。ここまで維持できたのは、本当に奇跡だったのかもしれません。しかしながら、何というか、言葉にできないもやもやとした気持ちが込み上げてきます。その気持ちを感じるとき、市場に関わる人たちの思いは想像以上のものなのではないかと感じました。新しい豊洲市場はどのような歴史を刻むのでしょうか。築地に負けないくらい皆に愛されることを祈ります。

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