家によく来る猫がいます。名前は「ぼくちゃん」で、私と母が勝手に呼んでいました。
ぼくちゃんには先代がいて、こちらは「かあさん」と呼んでいました。彼女は長いこと実家周辺をテリトリーにしており、非常に馴染み深い存在でした。彼女はすばしっこくて、簡単には捕まりませんでした。庭で子どもを産むことも多く、今私が飼っている猫もすべて彼女の家系です。
彼女が最後に産んだのがぼくちゃんです。薄い灰色と白色の柄が美しく、母親と瓜ふたつです。もう一匹雌の猫もいましたが、しばらくして姿を消しました。
二年ほど前にかあさんが姿を消してからもぼくちゃんは家にやってきました。母親と同じく人の手を触れさせない用心深さはありましたが、庭掃除をしているとじゃれて遊ぶ仕草をみせるなど幼さが残っていました。ふわふわの毛が可愛らしく、かあさんが姿を消して寂しくなった庭を明るくさせてくれました。
気の強かったかあさんはほかの雄猫を寄せ付けずにいましたが、姿を消したあとはぼくちゃんひとりで縄張りを守る必要があったのでしょう。みるみるうちに精悍になり、あどけなさは消えていきました。
今も毎日顔を見せてくれますが、なんだか母が死んだ私と境遇が似ているようでこれまで以上に親近感がわきます。寒さが厳しい冬場はとくに精悍な顔つきになっていて、外でひとりで暮らす厳しさを物語っています。
彼は生まれてから三年ほどが経ちます。あるときにふといなくなってしまうのでしょうが、それもやむを得ないと思っています。ふたりで母たちが残した庭に佇みながら、しばしの交流を深めていこうと思います。