記憶を巡る道

人生は「記憶」によって成り立っているものだと感じることがあります。どんなに面白いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、その出来事を忘れてしまっては存在しなかったことと変わりない気がします。

東京都豊島区長崎

先日、自身の記憶を辿るために大学時代に通っていた道を歩き直してみました。
キャンパスのあった江古田からバイト先の南池袋までの距離、おおよそ4.8キロです。当時は自転車で通っていました。実は、これといった思い出もこだわりもない道です。しかしながら、たまに部分的な記憶が蘇ってくることがあります。

東京都豊島区長崎

住宅街の細い道を進むと何度か商店街を横切るのですが、肉屋やその他のお店が活気付いているのが印象的でした。
その商店街はどこにあって、現在はどのようになっているのか改めて探りたいなと思いました。
当時はバイト先の仕事のことや、大学の課題などで頭がいっぱいだったので、商店街のことを詳しく知ろうと思っていませんでした。しかしながら現在は、曖昧な記憶を補強するために、位置関係などしっかりとした「記録」に残しておきたいと思ったのです。

思い立った時は池袋側にいたので、出発地点は南池袋となりました。ビックリガードを抜けて西口に回り、立教大学の脇を抜けて、山手通りに差し掛かります。ここで記憶に残っているのは都営バスと国際興業バスが停まっているバスの駐車場の道です。そこから西に進むと出世子育地蔵で、この祠は何となく記憶に残っていました。

さらにまっすぐ道を進むと住宅街になるのですが、道幅や雰囲気がちょっと違う気がしてきました。Google Mapで確認すると、一応江古田の方へ道は繋がっています。迷うたびに道を変えてしまうと余計に訳がわからなくなるので、ここは我慢して歩を進めます。結局、江古田の付近まで来てこのルートでないことに気がつきました。まだ体力は残っていたので、今度はそこから池袋まで違うルートで戻ることにしました。

東京都豊島区江古田:西武池袋線

本来通っていた方向になったことにより、少しだけ当時の感覚が呼び戻されたように感じました。西武池袋線の線路沿いから再出発をして細い道を抜けていくと、商店街に差し掛かりました。その商店街は「長崎十字会」という名前でしたが「何か見たことあるな」と気がつきました。以前コラムで紹介した小鹿田焼のお店「ソノモノ」さんがある商店街です。もしもこの道が大学時代に通っていたルートの通りならば、私は何も知らずにソノモノさんへ通っていたことになります。「やっぱり記憶というのは曖昧だな」と思いながらさらに進んでいくと、今度は椎名町の商店街を二つほど横切りました。

東京都豊島区長崎

「やっぱりこのルートだったのか」と思いつつも、記憶とすり合わせてみると少し異なるようにも思います。「もう一本隣の道だったのか」「直進していた気がするけど、実は何度か曲がっていたのか」など、記憶を疑いながら歩きましたが、結局、山手通りに辿り着くまでに確信を得ることはできませんでした。

東京都豊島区長崎

人の記憶とは曖昧で、その断片を思い出す度に夢だったのではないかと感じます。自分の存在の証明がなくなる不安定な気持ちにもなりますし、逆に嫌なことを忘れて良い思い出に昇華されたりもします。私はこういった確認作業が大好きなので、引き続き機会があれば調査したいと思っています。

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