花壇のアトリエ:ハーブと魔女

花壇のアトリエ」ではハーブが象徴的に扱われています。
特に花壇に咲くカモミールは、物語にとって重要な役割を担っています。

外界から閉ざされた静かな庭と家、世界の理を知るひとりの女性。
そんなシチュエーションの中で登場するハーブは、神秘的な雰囲気をより強調しているように思います。

ハーブティー

ハーブはヨーロッパでキリスト教発祥以前から用いられていたそうです。
ハーブティーやアロマテラピーなど多くの利用法に見られるように、ハーブには薬効があり、古くから病気の予防や治療に用いられてきました。
そして、キリスト教以前の宗教と、深い関係性があったといわれています。
怪我や病気に用いれば効能があり、さらには精神的な作用もあります。おそらく科学が発達する以前のこと、人々はそこに神秘的なものを見い出していたことでしょう。

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Einblattdruck zu einer Hexenverbrennung in Derenburg (Grafschaft Reinstein) 1555
Source: R. Decker, Hexen, p. 52

しかし、中世の魔女狩りでは、ハーブを扱う人々にも被害があったと言われています。

ハーブを魔除けに使う風習が、キリスト教の異端の儀式として捉えられていたのかもしれません。
魔女の定義は様々ですが、「悪魔と契約を行ったもの」という意味があります。当時はキリスト教以外の宗教は邪教とされていたため、その宗教の神は悪魔と同義になりました。

少々余談になりますが、悪魔を意味するデビル(Devil)は、他宗教において神聖さを表す言葉を起源としているそうです。サンスクリット語のDiv(輝く)、Deva(霊的な存在,輝く者)、またラテン語のディアボロス(Diabolos)もギリシャ語のDaemon(魂)が由来だといいます。

当初、教会は魔女狩りには否定的で、むしろ民衆たちの手によって行われていたようです。しかし15世紀頃には教会の後押しを受けてより盛んになりました。政治・宗教的混乱による戦争や、病気の蔓延、飢餓や災害などによって不安に駆られた民衆は、スケープゴートとして魔女狩りを行っていたのだとも言われています。生死を扱う医者のような人々や、産婆などが対象だったそうです。民衆は自分たちの理解を超える力を見て、感謝する反面、畏怖の感情を抱き、逆恨みをしたのでしょう。

民衆という大きな固まりは、人々の結びつきを強くする反面、集団ヒステリーのように客観的な思慮を欠く傾向にあるように思います。「花壇のアトリエ」でも、先生の閉ざされた世界と結衣の表層の世界という構図で少しだけ描いています。そうやって観察してみると、ハーブを自在に操る先生は魔女のようにも思えてきます。どちら側に立つことが人間にとって幸せかは分かりませんが、その間で揺れ動く結衣を通して、読者の方々にも少しの気付きがあればいいなと思います。

さて、今夜はクリスマスですね。魔女狩りでは敵対関係のキリスト教と魔女ですが、カトリックの聖地イタリアでは、クリスマスに有名な魔女が登場します。
彼女の名前はベファーナ。サンタクロースの代わりに登場し、悪い子どもには炭を、良い子どもにはお菓子をあげる有名な魔女です。
キリスト生誕の日、祝福に向かう三賢者が彼女の元に立ち寄ったときに、一緒に行って道案内をしてくれと頼みました。彼女は冷たく断りましたが、後になって悔やみ、キリストを祝福するためにお菓子を持って追いかけたといいます。そして一軒ずつ家に訪ねては、お菓子を配って歩いたそうです。

聖しこの夜、魔女やキリスト教、そして全ての人々に祝福があるといいですね。

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