花壇のアトリエ:家の記憶

花壇のアトリエ」は、先生が住む和洋折衷の古い家と、それを取り囲む広い庭だけで物語が展開していきます。
外の世界から隔離され、時間が止まったかのようなその場所で、主人公の結衣と先生の思い出が語られていきます。

秋田県大館市:家の記憶

家といえば今年の夏、私は親友の家を訪ねました。彼女は東京から故郷へ戻り素敵な家を建てました。
素材、間取り、家具など、隅々までこだわり抜いたその家は、とても居心地のよい場所でした。家主がずっと現場に張り付いて、職人たちとひとつひとつ相談しながら作ったそうです。彼女の性格が垣間見えるエピソードですが、家にいるとそれらの物質的なこだわりよりも、温かいおもてなしの気持ちが伝わってきました。私はそれで、彼女が一番何にこだわりたかったのかが分かったような気がしました。

秋田県大館市:家の記憶

そしてその家の近くにある、彼女の実家にもお邪魔しました。
築八十年ほどの古い日本家屋で、趣のあるものでした。訪れたときは、あるきっかけで古い荷物を整理されていましたが、私の友人である娘さんたちが物を手に取りながら懐かしそうに思い出を語っていたのが印象的でした。

秋田県大館市:家の記憶

新しく建てた家にも、古くからある家にも、それぞれ思いが籠っていると思います。
特に古い家には、そこに住んだ人々の様々な思いが蓄積していると思います。
嫁いできて子どもを宿し、産んで育てて背中を見送る。生まれて親に甘えて、青春時代を過ごして大人になる。伴侶を愛し、傷付きながらも傍に寄り添い、看取っていく。人の過ごした家には、そのような思い出の痕跡がいくつも残っているように思います。今はひっそりと静まった部屋も、以前は家族の賑わいで溢れていたのでしょうか。

秋田県大館市:家の記憶

現在では昔のように、古くから住んだ家に住み続けることが難しくなっています。
より今の生き方に合った家のかたちにするほうが、色々な意味で暮らしやすいといえるでしょう。でもそれは少し、もったいないような気がします。
単純に懐古主義と言えばそれまでですが、これまで経験してきた価値あるものを顧みて、今あるものに生かしていくというのは大事なことだと思います。
家族の関係は特にそのように思います。自分が大人になり、親になったとき、家族の思い出があるからこそ親の偉大さ、責任感の重大さに気付くというものです。
古い家にある様々な痕跡は、そんな記憶を封じたまま存在しています。
久しぶりに実家を訪れて、当時の自分の思いを確認してみるのも良いかもしれませんね。

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