センチメンタル(短編集):登場人物の名前の由来

センチメンタル(短編集)」に登場する人物の名前には、それぞれ由来や意味があります。
基本的には、彼らの両親が考えたように自然な名前を心がけていますが、そこには物語における役割を示唆したものもあります。一人ひとり、簡単に紹介していきます。

センチメンタル(短編集)イラスト
センチメンタル

【結希】
「センチメンタル」の主人公の名前です。結希は漢字のままに「希望を結ぶ」という意味です。道行く人々それぞれに思いがあり、大切な人が存在することを学んだ結希は、彼らの思いを小さな胸に寄せ集め、自分自身を成長させていきます。「希望を結ぶ」というのは、そんな彼女の成長過程をそのまま表しています。

【啓介】
結希を温かく支える大学生。「啓」は「開放する、人の目を開いて物事を理解させる、陽の気が開いてくる季節」という意味があります。そして「介」は「間に入って仲立ちをする、両側から挟んで身を守る鎧(よろい)」という意味です。成長途中の結希を優しく包み込み、春の日差しのように優しく物事を理解させる彼にぴったりの名前です。

【和子・勝彦】
たばこ屋のお婆ちゃんと、幼少期に隣に住んでいた男の子の名前です。どちらも戦争当時によく付けられていた名前です。「和」は日本を表し、「勝」は日本の勝利を願い、祝う意味が込められています。

【梁(苗字)】
和子の憧れる中国人。「梁」は中国の広東地方に多い姓と言われています。また「梁」は家の建材の名前で、屋根などの重さを支える重要な部位を指します。和子にとって、梁さんは精神的にも、実質的にも頼れる存在でした。彼の支えがなければ、和子は孤独の中で生きることを諦めていたことでしょう。

【梅子・亀太】
結希の家に住んでいた野良猫と亀の名前です。これらは筆者の家に通っていた野良猫と、小学生のときに飼っていた亀の名前です。因みに亀太のエピソードは、筆者が子どもの頃に飼っていた金魚の思い出を元にしています。

【綾】
啓介の娘の名前です。「綾」の「あや」は感動したときに発する語です。美しい文様や言葉の技巧なども指します。啓介が結希にしたように、自分の娘にも人々の心や世界の美しさを見せてあげたい、そんな気持ちが込められています。

かたち
【未帆】
「かたち」の主人公の名前です。「風を受けて未来に向かって出航する」意味で名付けられたのだと思いますが、小説の展開としては、家族とのわだかまりに捕われて「未だに出航できずに風を待ち続けている」意味合いに変化しています。

【稚恵(ちい)】
未帆の妹の名前です。「稚」は「まだ伸びきらないで、丈が小さい、幼い」意味です。そこに「恵」が付け加わって、「人々の愛情に恵まれて、すくすく成長してほしい」意味が込められています。名前の通り、無邪気な振る舞いで人々に愛される稚恵ですが、頭を働かせて周りに気を遣っているところがあります。それが彼女の「知恵」であり、「ちえ」という音に合うようにしています。

【哲也】
未帆の結婚相手の名前です。「哲」は「賢い、物事の筋道が通っていること、道理をわきまえている」などの意味があります。劇中の哲也はのんびりとした性格ながら、家族や結婚に対してとても誠実で、思い悩む未帆をおおらかに導いてくれます。

パルテノペ
【郁子】
「パルテノペ」の主人公の名前です。「郁」という字を調べると「多くの模様がはっきりと区切れ目立つさま、まだらで艶やかなさま、盛んなさま」を意味します。彼女は幼少の頃から辛く寂しい思いをしますが、きらきら輝きながら未来に向かって生きてほしい、という意味合いを込めました。「パルテノペ」はそんな若い人々へのメッセージでもあります。

【敏志】
「敏」は「神経が細かくよく働く、行動がきびきびと速い、すばやい」意味があります。そこに「志」が付け加わることで、志を持ってきちんと行動できる人間になってほしい、という気持ちが込められています。
劇中での彼は責任感が強く、郁や母親の気持ちを繊細に感じ取る、優しくて男らしい人物です。

【陽太】
「陽」は「はっきり見えるさま、生きている、生きている世界」を意味します。また、ストレートに太陽を意味します。太陽は万物の根源を表す神格化された存在であり、命を吹き込む存在でもあります。郁にとって陽太はそのような存在であり、未来を生きるうえで大きな影響を受けます。

【カイ】
カイは「海」の音読みです。彼はそのまま海の象徴です。尚、陽太の「陽」は「洋」の音と一緒で、カイと合わせて「海洋」という意味になります。

花壇のアトリエ
【結衣】
「結衣」は最近の名付けランキングで最も人気のある名前だそうです。名前の由来はそれぞれで、人との結びつきや、衣食住に関連して豊かな生活を願う意味が込められているそうです。劇中の結衣のご両親も、先生の庭と家、つまり世界の深淵ではなく、日の当たる表層の世界を生きてほしいと願って付けた名前なのでしょう。

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