東京港野鳥公園

九月も半ばになり、朝晩冷え込むようになってきました。
夏の疲れが取りきれていないこの季節、皆さんどうぞご自愛ください。
先週、新しい小説の取材を兼ねて、久しぶりに東京港野鳥公園へ出掛けました。

東京都立東京港野鳥公園

この公園は品川から少し離れた大田市場の隣にあります。一般の人は滅多に立ち入らない地域なので、東京出身でも知らない方は多いのではないでしょうか。

私は中学時代に初めて訪れ、以来何度か足を運んでいます。
それでも前回訪れたのが十五年以上前なので、本当に久しぶりでした。

東京都立東京港野鳥公園

野鳥公園というだけあって、園内は建物があるわけでもなく木々に覆われています。
東京港に面しているので水は豊かで、干潟もあるため季節毎にさまざまな野鳥が訪れます。
しかし動物園と同じ気持ちでこの公園に訪れると、期待を裏切られるかもしれません。
園内には野鳥を観察する観察小屋と、ネイチャーセンターと呼ばれる施設があるのみです。

東京都立東京港野鳥公園

野鳥も近くに見えるわけでもなく、望遠鏡で観察しなくてはなりません。野鳥の種類もカイツブリやガンカモなど素朴な鳥ばかりです。

しかしそこには都会における自然のありのままの姿があります。そして人間も自然と距離を置き、遠慮をしながら「見せていただく」姿勢を学ぶことができます。

東京都立東京港野鳥公園

ネイチャーセンターの一番下は、干潟を間近で観察できる場所があります。
そこに暮らすカニやハゼたちの生き生きとした姿を見ることができます。また、その場所は建物の下ですが外と繋がっているので、海からそよぐ風や匂いを感じることができます。

東京都立東京港野鳥公園

公園の敷地はとても広いのですが、東京の倉庫群に囲まれて少し窮屈そうです。灰色の景色にぽっかりと浮かぶ緑の敷地は、さながら最後の楽園を思い起こさせます。
公園のある土地は埋め立て地で、以前は海が広がり海苔の養殖が盛んだったそうです。その頃の写真を眺めていると、昔は今以上に木々や干潟、そして海が大きく広がっていたのだろうなと想像できます。
公園に訪れたときは天気がよく汗ばむ陽気でしたが、コンクリートに囲まれているときよりも移り変わる季節を感じることができました。

東京都立東京港野鳥公園

ツクツクボウシの声が響き渡り、そのさなぎの殻がそこかしこに脱ぎ捨ててある。
雲の勢いが少し遠くに追いやられ、見上げる空の高さが増している。
けだるい湿気を肌で感じようと手を伸ばすと、間近をかすめて後ずさりしていく。

目には映っているはずの夏も、もう私たちのそばから離れている。
出会った頃と変わらぬ姿なのに、もう気持ちは離れているような切なさを感じます。
野鳥たちも冬支度のために、次第にこの地を離れていきます。
2014年の夏も、これっきりでお別れです。
小説の取材に来た私でしたが、どことなく自分自身を詳しく観察している気分でした。

東京都立東京港野鳥公園

東京都立東京港野鳥公園
東京都大田区東海3-1
JR「大森駅」東口、京急「平和島駅」から京浜島循環(森24)、昭和島循環(森25)、城南島循環(森36、森45)、大田市場行き(森43)で「野鳥公園」または「東京港野鳥公園」下車、徒歩5分。
JR「品川駅」東口、大田市場・大田市場北門行き(品98甲)で「大田市場北門」下車、徒歩5分。
東京モノレール「流通センター駅」下車、徒歩15分。

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