東京には古くから残る邸宅が数多く残されています。
私のいちばんのお気に入りは朝倉文夫の朝倉彫塑館ですが、今回は同じ谷根千界隈にある旧安田楠雄邸にお邪魔してきました。
旧安田楠雄邸は豊島園を開園した藤田好三郎が大正八年(1919)に建設しました。
その後、安田財閥の創始者、安田善次郎の娘婿善四郎が購入し、その長男の楠雄が相続したものです。書院造や数寄屋造を継承した和風建築でありながら、洋風の応接間がある和洋折衷の様式でもあります。現在は財団法人日本ナショナルトラストに寄贈されて、修復管理されているそうです。
入館料を払うと、案内の方に靴と荷物を預けなくてはなりません。また裾の長いズボンなどは捲るように案内されます。これは見学の最中、不用意に建築や畳などを痛めないようにする配慮なのですが、関係者の方々の並々ならぬ気遣いを感じます。
また、邸宅の至るところにガイドの方がいらっしゃって、それぞれ細かく説明をしていただけます。実をいうと私は自由なスタイルが好きなので少し窮屈に感じますが、お話を伺っていると確かになるほどとためになることばかりでした。
入口のすぐ近くに洋風の応接間があります。
サンルーム越しに日本庭園が広がって、重厚でありながら清々しい雰囲気です。近代の日本によく見られた和風と洋風の融合、すなわち和洋折衷の織りなす素晴らしい空間が広がっています。
奥へ行くと純和風のお部屋が幾つもあります。
さすがは財閥の邸宅だけあって間取りも広く品を感じさせるつくりをしていますが、窓越しの日本庭園が薄暗い部屋へ美しい光を放っており、そちらに目を奪われます。
奥の方へ進むとキッチンがあります。
ここは奥様が色々と改修されて出来上がったものらしいのですが、今流行りのアイランドキッチンだったり、棚がガラス棒で清潔さを保つ工夫がしてあったりと実用性を考えたものになっていました。
二階に上がると広々とした和室が広がっています。
畳に差し込む日射しや、庭園の桜ともみじの姿が美しく、何時間もぼうっとしていたい気持ちにさせます。
どこも魅力的なお部屋ばかりだったのですが、詳細は他の方のブログやウェブサイトにお任せするとして、私が魅力に感じたところをご紹介します。
それは、家屋の細かな部分です。
たとえば窓のねじ鍵や、電気のスイッチ、窓の波上の模様が浮かんだ硝子。
眺めたり指で弄んでいるだけで、どこかすうっと過去へ誘(いざな)われるような気がします。住んでいた方たちが長い年月に何気なく触れたり、拭き掃除をしたりしていた部分です。それを思うと、彼らの生活を共有しているような錯覚に陥ります。
板の床もじっくり見れば、時間を経てにじみ出た「味」があることに気付かされます。
ちょうどお邪魔したときは重陽の節句だったため、菊がたくさん飾ってありました。それにちなんだ出し物や飾り物も多く、旧安田楠雄邸を守る方々の思いがひしひしと伝わってきました。
こうして時代を重ねて生き続けてきたものたちを見ることができるのも、そういった方たちのお陰ですね。これからも末永く愛される邸宅であってほしいと思いました。
東京都文京区千駄木5−20−18
JR山手線「西日暮里駅」「日暮里駅」徒歩15分、東京メトロ千代田線「千駄木駅」1番出口より徒歩7分
一般見学:毎週水・土曜日