三月のライオン

印象に残る映画はいくつもありますが、とりわけ劇場で一回だけ観た映画というのは、どこか夢のように曖昧でありながら、強く印象に残っているものです。

映画:三月のライオン

1991年公開の「三月のライオン」。漫画でも同名の「3月のライオン」がありますが、どちらもイギリスのことわざ「三月はライオンのようにやってきて、仔羊のように去っていく」から着想を得たタイトルです。

日本のインディーズ映画の傑作のひとつとしても数えられるこの作品との出会いは、私が高校生のときでした。単館上映されたときに一度だけ観賞しました。

映画:三月のライオン

ストーリーは、記憶喪失の兄を慕う妹が、自分のことを「兄の恋人」だと偽り生活するという流れです。近親相姦というタブーを扱った作品であり、作中に登場する東京の風景や小道具に至るまで、移ろいやすく儚い印象が際立っています。

豊洲の火力発電所の四本煙突が見える鉄橋、線路の上にそびえるアパート(東京都交通局志村寮)、新宿副都心が見渡せるビルの屋上など、懐かしいながらも「東京はこんなに寂しい街だったか」と思わせる場所ばかりです。しかしながら、多くの人々があふれる東京で独りだけ置いてけぼりにされているような感覚を、うまく表現しているように思います。

映画:三月のライオン

私も東京に生まれ育ちながらも、そのような疎外感を持ち続けてきました。ですので作中の東京の描写はとてもなじみ深く心地よい気持ちにさせてくれます。
恐らくこの作品を評価している多くの人々も同じような気持ちを抱えているからこそ、支持しているのだろうと思います。

映画:三月のライオン

映画館に足を運んで以来、見返すことなく淡い記憶とともに過ごしてきましたが、先日DVDを手に入れて久しぶりに観賞しました。いつか見た夢に再び出会うようでとても懐かしかったのですが、現在でも東京の路地裏をぶらぶらと歩く私にとっては、二十年以上の歳月を経ても作品の世界観はしっくりきました。
あれから周りも自分も色々変わってしまいましたが、根本にあるものは決して移ろうことはないのだと思います。

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