老いの心情

人間生きるのであれば、その間は健やかに過ごしていたいものです。私が四十歳を迎えてもう三年が経ちましたが、身体のあちこちで不具合が見え始めています。

埼玉県戸田市:荒川

初老と呼ばれるのは四十歳前後です。寿命が長くなった現代では、初老は六十歳前後が当てはまると思う人が増えたようですが、私にとっては四十歳のほうがしっくりきます。ガンなど大きな病気が見つかりやすくなりますし、女性は早い人では更年期が始まります。健康診断も今までずっと「オールA」だったのに、BやらCが増えていきます。

仕事の能力や経験も限界が見え始める頃ですし、親など自分より歳上の人々が本格的に老いる頃でもあります。五十代や六十代の人たちから見たら「まだまだ若いよ」と思うのでしょうが、二十代や三十代とは明らかに異なる世界が広がり始めます。

そのようなことを考えると気持ちがだんだんと暗くなってしまいますが、良いことも色々あります。例えば小説を書く際には、登場人物の描写の役に立ちます。

以前、新作の小説を知り合いに読んでいただいたときに「若い人ではなく、もっと年上の人物を主人公にしないのか」と聞かれたことがあります。その方は私よりひと回り以上は歳が上だったのですが、私は自分自身より歳上の心理描写は難しいと答えました。なぜならば、それは私はまったく未経験のものなので、想像で書いてしまうと嘘くさくなってしまう恐れがあったからです。

それでは、女性が主役の物語ばかり書いているのはどうなのかと聞かれれば矛盾が生じてしまうのですが、老いはもちろん、様々な経験を積んだ人々の行動心理や感情、ジレンマなど、なかなか想像しにくいものでした。ちなみにこれと同じくらいの難易度でいうと、子どもを持つ親の心情です。

私は一人称形式で書くことを好んでいます。従って、主人公になるのは私に近い心情を持つ人物が自ずと選ばれます。ですから自分がひとつ年を取ることで、より主人公の選択肢が増えることになるので、小説を書くうえでは都合が良いことになります。

年を取ったなと落ち込むたびに、新たな小説のアイデアが浮かんできます。恐らく辛気臭い内容になると思うので読み手としては面白くないかもしれませんが、老いていく自分自身を見つめ返す上では非常に意味のあるものになるのではないかなと思います。

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