変わりゆく町、立石

先日用事があり、久しぶりに葛飾区の立石に赴きました。戦後の風情が残る数少ない町のひとつですが、再開発計画によってその景観は大きく変わろうとしています。

東京都葛飾区立石:立石仲見世商店街

大規模なアーケードが残る南口は今も現役です。特に立石仲見世商店街は飲み屋が立ち並び、元気に営業しています。本当に良い店が多く、加えてアーケードの雰囲気が抜群に雰囲気があるので、もちろん私もこの場所が好きです。なんでも戦争で家屋を失った浅草の飲食業者が疎開してきた歴史があり「仲見世」という名前が付いているそうです。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

しかしながら、立石は再開発計画が進んでおり、その風景が一変しようとしています。
まず、京成押上線の立体交差事業があり、四ツ木まで続く多くの踏切を解消しようとしています。また、北口駅前を再開発して有用活用するだけでなく、防災対策を万全にするそうです。南口もまだ具体的にはなっていませんが、同じように再開発される予定です。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

このため、京成立石駅の北口周辺の飲み屋街一帯は立ち退きをしています。私が訪れたときにはすでに北口の建物にはほとんど人の気配がなく、飲み屋の看板だけがにひっそり佇んでいるだけでした。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

私は立石に住んでいるわけでもなく、ましては頻繁に足を運んでいたわけではありません。立石に興味がある大半の人々もそうでしょう。ですから、この再開発に対して何を言う権利はほとんどないのだと思います。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

ただこうして飲み屋街の跡地を巡り、かつて賑わいをみせた光景を想像するだけです。これまでどれだけの人が笑い、泣き、愛し合い、憎しみあったのでしょう。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

これだけの飲み屋が集まったのですから、立石は本当に賑わいのある町だったのでしょう。給料袋を握りしめて贔屓にしている女将の店へ急ぐサラリーマンもいたかもしれませんし、カウンターの端が指定席の常連のお爺さんもいたかもしれません。夢がなかなか叶わず挫けそうになっていた小説家や、借金で首が回らなくなった自営業の社長もいたかもしれません。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

人それぞれに人生があり、うまくいったこと、いかなかったことがあるかもしれません。向田邦子の短編や脚本のように、少し複雑な事情を持つ人がいたかもしれません。そういったさまざまな人生の残りかすが密集した建物のそこかしこにこびりつき、蓄積されていたのではないかと想像しました。

東京都葛飾区立石:北口再開発地域

時代と共に人が減り、しばらく寂しい時間が過ぎたに違いありません。そうでなかったら、赤羽や高円寺のように昭和の風情を残しながら発展することができたことでしょう。但し、立石は他の消滅した数多くの飲み屋街とは異なり再評価されています。きっと再開発計画の中で、立石の飲み屋街の良さが活かされる可能性が残っています。

東京都葛飾区立石:猫

人の喜びや悲しみ、そんな業(ごう)のような垢が綺麗さっぱりなくなってしまうのはちょっと寂しくはありますが、東京はそうやって新しいものが積み重なって、再生を繰り返しながら個性を生み出している都市でもあります。古いものも新しいものもうまく融合できるように願うばかりです。そして新しくなった立石にも、必ず訪れたいと思います。

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