二〇二〇年の公孫樹

先日、胸突坂にある公孫樹の紅葉を見にいきました。胸突坂は目白台の永青文庫の先にある急な坂で、公孫樹は坂の脇にある水神社の御神木です。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

このコラムに長年お付き合いいただいている方にはおなじみかもしれませんが、ここに訪れるのは私の毎年の恒例となっています。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

実は二週間ほど前にも訪れて確認していましたが、まだ緑の部分が多く残っていました。今回も完全に紅葉していませんでしたが、それでも美しい黄金色の色彩を放っていました。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

冬の西日が差し込んで幹や葉の影からこぼれています。少し寂しげな日の光が、より情緒を帯びて瞳や身体に入り込んでくるようです。この光景は毎年変わらないものですが、見る側の環境が変化するからでしょうか、毎回異なった印象を与えてくれます。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

今年は私にとって大きな変化がいくつもあり、どちらかといえば苦しいこと、迷うこと、悩むことが多くありました。また、青年期は遠に過ぎ去って、中年期が深まる実感もありました。自分やまわりが変わり続けても、この公孫樹は長い間変わることなくその場に居続けてくれるので安心感を与えてくれます。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

相変わらず葉の陰には多くの野鳥が隠れていました。とりわけヒヨドリは元気に鳴き声を上げています。耳をすませばシジュウカラやスズメの可愛らしい鳴き声も聞こえてきます。見渡せば空は青く、木々は赤、黄、橙とさまざまに色付いています。生きることは美しく、枯れて朽ちていく姿もまた美しいと感じます。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

ほんの数年前までは、立ち止まってこの公孫樹を仰ぎみる人は少なかったのですが、年々人気になっているようです。近くの肥後細川庭園も新たに整備された影響でしょうか。わいわいと楽しくというよりは、息を呑むように厳かにじっと見つめる人々の姿が印象的です。

この公孫樹は私の小説「センチメンタル」の舞台にもなっています。以前、この小説のためにRosco Motion Orchestraに作曲していただいたのですが、公孫樹の写真を見ながらこの曲を聴いていると、なんだか胸にこみ上げてくるものがあります。

東京都文京区目白台:水神社の公孫樹

この公孫樹とは中学以来の付き合いですが、末永く私たちを見守り続けてほしいと思います。

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