柘榴(ざくろ)

二十四節気は立冬が過ぎ、そろそろ小雪に入ろうかという頃です。本格的な冬が始まるので、今のうちに秋を満喫しておきたいですね。

東京都豊島区雑司が谷:柘榴(ザクロ)

この時期に外を歩いていると、庭先に柘榴(ざくろ)の実がなっているのを目にします。熟すと張り詰めた皮からぬめりのある赤黒い種子を露わにし、その佇まいはどこか艶かしさを感じさせます。

東京都豊島区雑司が谷:雑司ヶ谷鬼子母神堂

柘榴は種子を多くつけることから、豊穣や多産、子宝に恵まれる植物として親しまれてきました。鬼子母神を祀る寺院によく植えられ、装飾や絵馬のモチーフにもなっています。鬼子母神はご存知のとおり、人間の子どもを捕まえて食べていましたが仏様に自身の子を隠され、改心して子どもや安産の守り神となりました。

東京都豊島区雑司が谷:柘榴(ザクロ)

鬼子母神は吉祥果を右手に持つとされていましたが、吉祥果がどんな果実かわからず中国からの伝播以降に柘榴を持たせることにしたそうです。多産や子宝に恵まれるイメージが鬼子母神の守護と重なるからなのでしょうが、他者の愛する者を喰いながら、自身の愛する者に執着する鬼子母神の母性は、どこか柘榴の艶かしさに似ていると個人的には思います。

東京都豊島区雑司が谷:柘榴(ザクロ)

日増しに厳しくなる寒さのなか、野鳥たちはその支度のために果実をついばみます。柘榴も好物のようで、メジロやヤマガラなどが集まってきます。鬼子母神とは立場が逆ですが、喰われることで子孫を増やし、朽ち果てていく姿は非常に生々しく、それゆえの美しさを漂わせています。カマキリの雌と雄の攻防もそうですが、野生の生殖はなんとも残酷で艶かしいものだと感じます。

季節は冬にさしかかり、自然の営みはハイライトを迎えます。柘榴を見ているとそれらの象徴的な存在のように思え、ずっと眺めていたい衝動に駆られます。

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