移り変わる街

都市の本質は、時代によってそのかたちを変えていくことかもしれません。
休日に東京の目白台・雑司が谷を散策して、その片鱗を見つけました。

東京都豊島区・雑司が谷鬼子母神

目白台から雑司が谷、その周りに広がる一帯は、私の昔からのお気に入りの場所です。
丘陵地に佇む深い森、静かな住宅街。教会や名跡、数々の個性的な坂。
どこをとっても魅力的で、思い出もたくさんあります。
しかし時代の波には逆らえず、街の様相も変わってきました。

東京都豊島区・雑司が谷

いちばんの変化でいえば、東京メトロ・副都心線の開通でしょうか。
都バスでしか行くことができなかった場所が、簡単にアクセスすることができるようになりました。そして大きなマンションやビルが次々と建てられていきました。

先日、散策時にその変化を眺めていましたが、今回は別の大きな変化を見つけました。

東京都文京区・目白台一丁目遊び場

以前のコラムでもご紹介した目白台一丁目遊び場の向こう一帯が、道路拡張のために更地になっていました。
これは都市道路計画のひとつ、環四の環(わ)を繋げようとするものです。
東京は環状線が幾重にも連なったかたちで交通網が敷かれています。
有名なのは環七ですが、その内側にも一号線から六号線まで存在しています。
例えば五号線は明治通り、六号線は山手通りです。
ただし四号線より内側は、それぞれの地区の事情により途切れている箇所も存在しています。
目白台一丁目遊び場から坂を下りた一帯は、四号線の途切れた部分でした。外苑西通りから続くこの道を、不忍通りまで繋げようという計画のようです。

東京都文京区・目白台一丁目遊び場

目白台一丁目遊び場は、これから繋げたい道路の土地に存在します。
普通に考えれば、なんの変哲もない公園は壊されて、道路になってしまう運命です。
そんなことは思いもつかず、私は久しぶりに訪れて公園の魅力を満喫していました。大きく育った木々や、斜面にある魅力的な階段を見て、ここで遊んだ人々の現在を想像していました。
しかし公園を出て坂を下ったときに、更地になった一帯を発見して愕然としました。

思い入れのあった場所がなくなっていく。
先ほどまでの幸せな気持ちが、暗くなるのが分かりました。
しかしそれも東京の運命、私が知る目白台だって、もっと以前には別のかたちで存在していたに違いありません。変化を拒むことはできないのです。

東京都文京区・目白台

街は移り変わるからこそ、魅力的なのかもしれません。
もしかすると人間関係なども同じなのかもしれません。
残念な気持ちを抱きつつ家に帰り、ゆっくり感傷に浸ることにしました。

しかしその後に調べてみると、意外な真相がありました。
道路を繋げる計画は確かにありますが、その計画は目白台一丁目遊び場の下にトンネルを掘る計画だったのです。

目白台は丘陵地なので、道路をそのまま繋げると急な坂ができてしまいます。
そのため、トンネルを不忍通りまで通さなければならないそうです。
この情報を知ったときに私は安堵しましたが、代わりに消えていく他の風景を思いました。

東京都文京区・目白台

公園は残っても、消えていく場所は別にある。
新しいものができる場所には、必ず昔からのものが存在している。
私と同じように、慣れ親しんだ場所が失われることを残念に思う人々がいるのです。

都市は移り変わり、過去も未来も飲み込んで、人の気持ちも溶かしてしまう。
なんだか私はとても不思議な場所を故郷にしているのだと思いました。
古代ローマにも、ナポリの前に存在していたパルテノペにも、私と同じように感じた人々がいたのでしょうか。
そのようなことを想像しながら、私は散策で得たこの気持ちを小説に記していきたいと思います。

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