秩父の荒川

昨年から日を分けて荒川の河川敷を歩いています。海側の砂町の河口から等間隔に設置された「荒川之下流三十景」という案内板を巡り、現在は折り返し地点の高島平から戸田側に渡り、引き返して川口辺りにいます。「荒川之下流三十景」のすべてを巡ったら、このコラムでも詳しく紹介しようと思っていますが、先日は荒川のもっと上流、秩父へ行ってみました。

埼玉県秩父市:武甲山

秩父は子どもの頃から就職するまで旅行などで何度か訪れていましたが、しばらくご無沙汰でした。昨年改装された西武秩父駅を出ると、秩父神社の神奈備(かむなび)山である武甲山が出迎えてくれました。秩父山地に囲まれた盆地なので、どこからでも美しい山々を見渡すことができます。

埼玉県秩父市寺尾:荒川と武之鼻橋

駅から西側に進んで行った先には荒川があります。国道208号に掛かる秩父公園橋からも川の様子を見ることができますが、公園橋はかなり高い場所に掛けられているため、もう少し低い場所のほうが詳細を確かめることができます。今回は、秩父公園橋の下に掛けられている武之鼻橋辺りからアプローチしました。この武之鼻橋は1953年に竣工され、秩父観光農園村のある寺尾へと繋がる橋として、地元の人々に愛されてきたそうです。

埼玉県秩父市寺尾:荒川

武之鼻橋は幅が狭く、車は片側交互通行となっています。橋の中央を歩いても、景色に目をやると少しよろけた気分になるほど狭い橋です。しかしながら、荒川や山々や空がパノラマに広がりとても晴れやかな気持ちになります。橋から延びる道をぐるっと回って、さらに川に近づいてみました。

埼玉県秩父市寺尾:荒川

海のすぐ近くの砂町辺りの荒川とは異なり、場所を選べば足で渡れるくらいの川幅で、水深もそこまで深くありません。そしてなによりも水が綺麗です。川底に大きな岩盤があるのを確認できます。また、野鳥も多く水辺に訪れます。セキレイも都内で見られるハクセキレイだけでなく、山間部に生息するキセキレイもいます。カワセミやカワウ、サギも複数の種類がいました。また、カモたちもすでに飛来しているようです。

埼玉県秩父市寺尾:荒川とキセキレイ

荒川はさらに西の秩父山地の奥を進んだ甲武信ヶ岳に源流があります。そこから秩父盆地を北上して長瀞を進み、寄居辺りで東に進んで関東平野に至ります。さらに進むと南に向かって東京湾へ辿り着きます。その全長は173キロだそうで、私が歩いた約30キロに比べると5、6倍あります。その長い距離の中で他の水流と合流して、川幅をどんどん大きくしていきます。その間に多くの動植物だけでなく、多くの人々の生活を支えているのだと思うと、ロマンを感じられずにはいられません。

埼玉県秩父市寺尾:荒川

例えば、笹舟のようなものを流したとしたら、どのくらいの時間で砂町の河口まで至るのでしょうか。実際には長瀞の急流などを無事に越えることはできないでしょうが、ちょっと試してみたい気もします。手を水の中に入れると冷たく、秋の気配が溶け込んでいるように感じました。

埼玉県秩父市寺尾:荒川

昔から荒川は「荒ぶる川」として恐れられてきました。その性格は治水工事を重ねて穏やかになったものの、今でも大規模な洪水による災害の危険性を孕んでいるそうです。荒川のそばに住む人々は、そんな猛々しさも含めて崇拝してきたそうですが、秩父の荒川は自然の神が宿るにふさわしい風貌を兼ね備えているように見えます。

埼玉県秩父市寺尾:荒川

秩父鉄道を進んで三峰口まで行き、さらにバスと徒歩で進むと荒川起点の碑にたどり着けるそうです。源流は甲武信ヶ岳にあるそうですが、起点は入川と赤沢の二つの水流が交わるところなのだそうです。機会があれば、そちらにも赴いてみたいと思っています。

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